よろず夜話

軍事や自衛隊を多めにしつつ色々な話をするブログ。話の正確性は6割ほど、力を抜いた話ができるようにしたいです。アイコンは陸上自衛隊HPより引用

新型弾道ミサイル防衛システム開発へ

新年三が日を越えいつもの日常に戻っていくことに安堵と寂しさを感じますが、安堵の感情は子供のころでは感じなかったことにまた一つ大人になった寂しさがと色々考えさせられます。

 

さて、今回は陸上自衛隊が新型の弾道ミサイル迎撃ミサイルを開発することになったいう話です。

www.sankei.com

現在のところ自衛隊保有している弾道ミサイル迎撃ミサイルは海上自衛隊のイージス護衛艦から発射されるSM-3と航空自衛隊ペトリオットPAC-3ミサイルとなります。記事では国産ミサイルの開発はロシアのイスカンダルミサイル(SRBM)の対応が厳しいのが国防上の問題になっているためそれを補うためとされています。

 

我が国のミサイル防衛は強化が決定している

実のところ自衛隊のミサイルは航空自衛隊PAC3は射程距離(20→35km)と機動性をアップをしたMSE型への改良が決定、予算も前倒しに確保されてます。海上自衛隊向けのSM-3は去年に米国から3500億円相当(ソース見つけられなかったですが180発とか)を購入し、そのミサイルは最新型のBlock ⅡAとなっています。

www.afpbb.com

maps.gsi.go.jp

また、上の地図サイトから調べてみるとわかるのですが産経新聞で不安視されていたイスカンダルミサイルは射程400kmとなっており、北朝鮮と韓国の国境であれば600km以上のミサイルでないと西日本を射程に収められず、元山付近であれば700km以上でないと西日本を射程に収められないのです。実際のイスカンダルミサイルはリミッターを解除して射程延長できるようですが、遠くに当てるには弾道ミサイルなら高度をあげるしか方法がなく高度が上がればSM3でも迎撃が可能になるかもしれないです。

一方PAC3の射程の短さが問題になりますが狙われやすい大都市圏を防護するだけの能力は最低限有しているので、過疎地への被害に目を瞑ることになってしまいますが人口密集地への被害を抑えることはできます。もっと言うと陸自は建設地の決定もままならない状態ですがイージスアショアも導入され、米国で開発中のSM3Hawkを導入すると地上側でも迎撃が不可能と言う訳でもないということです。

 

それじゃ陸自の新型ミサイルは無駄か?

結論から言うと無駄ではありません。と言うのも、SM3 Hawkはできていないものでこれの存在をできている前提で語るのはただのオタクの妄想に終わる現実性のないものになります。また射程延長により高度が上がるのも希望的観測に過ぎず、北朝鮮イスカンダルミサイルの飛行高度は60kmと見積もられているらしく、SM3の最低迎撃高度が70kmとなっているので頑張っても迎撃できません。

PAC3は能力は上がりましたが、これを外すと致命的な被害を受ける上にPAC3自体命中率が必ずしも高くないのではないかという意見もあります。アメリカにはPAC3とSM3の間を埋めるTHAADミサイルが存在しますのでこれを所持していない日本はこの手のミサイルを入手することのメリットが大きいのです。

ちなみにアメリカはSM3より早い段階・迎撃できない高度を迎撃するGBIミサイルが存在します。これは弾道ミサイルまんまなので日本が導入することは現実的でなくミッドコース(中間段階)、ターミナルフェイズ(終末段階)の防衛能力を上げるしかないのです。その改善に今回の陸自のミサイル開発は大きな意義があります。

また、記事の後半で述べられている新型滑空弾頭が本命になります。これは現在ロシアと中国が米国を出し抜いて開発している兵器でこれは従来のBMDでは対応できず、攻撃能力よりもBMD能力を上げてきた米国の戦略を打ち砕く軍事パラダイムの変更を起こしかねないものとなっているので、これを迎撃するミサイルの存在は急務になる訳です。

 

因みに

今回の自衛隊の対弾道ミサイル開発はカバー範囲の強化以外にも意味があります。それは国産ミサイルの開発で自由な改良ができますし、米国以外の国に売り込みが可能になる訳です。幸運か不幸かはわかりませんが弾道ミサイルは世界に意外と拡散されており、身近な国では台湾と韓国が独自の弾道ミサイル保有しています。それどころか、日本の周りの国は全て軍事大国で弾道ミサイル保有しています。イスラエルもびっくり。

輸出の需要があるのはイランの攻撃に怯える国やフィンランドなどのロシアに近接する国々なんかもあります。潜水艦や哨戒機よりも脅威は身近なため需要も発掘しやすいので売り込みのチャンスになり得ます。改良に関してはSM3の改良にしてもPAC3にも言えますが米国の要求と我が国の要求をすり合わせる必要があるので時間がかかりますし、米国議会で許可がなければ購入しても輸入できないと言う問題がありますので、そこのハードルの解消ができるのは大変意義のあるものになります。

 

なお、よくある敵基地攻撃能力があればミサイル防衛は要らないと言う意見ですが、どこの国も日本の周辺は軍事大国であるが故に防空網が形成されており、巡航ミサイルや戦闘機は多くが迎撃される可能性があります。そもそも、この戦法は湾岸戦争と言う30年前の戦争からある戦法なので米国に敵対する国である日本の近隣諸国は対策をしてるのは明白であり、思うような効果はないと思います。さらに、攻撃には目標の確認が必要ですが国交もなく強固な反スパイ網とゲリラ戦・特殊戦の経験のある北朝鮮工作員を送るのはリスクが大き過ぎ、偵察機グローバルホークでは撃墜の可能性、衛星は常時監視衛星が存在しないため監視不能と日本の現状では敵基地攻撃能力は生かせず予算も安いもので済まないものになると思われます。

いずれにせよ、北朝鮮と中国の弾道ミサイル能力が上昇している中で防衛システムの選択肢が増えることは非常に歓迎すべきことだと私は思います。